イデオロギーと密接に関わるWebデザインの変遷

 

1991年に世界初のWebサイトが公開されて以来、Webデザインはコンピュータの進化とともに表現の自由度を広げていきました。
ネットワーク接続がまだ貧弱だった90年代は、画像の利用さえも極力控える必要があったほどWebデザインは不自由を強いられていました。Webデザイナーが自由に意匠を凝らすことができるようになったのは、技術が一定の成熟を迎えた2000年代中頃からではないでしょうか。

 

紆余曲折を経て、現在ではミニマリズムの流れを汲む「フラットデザイン」が主流となっていますが、その長期に亘る支持傾向を見ていると、もはやフラットデザインは一過性のトレンドではなくWebデザインの一つの解であるかのように思えてきます。

 

どのような経緯を経て、Webデザインはフラットデザインへ到達したのでしょうか。
この記事では、Web2.0が提唱された2005年から現在に至るまでのWebデザインの潮流を、当時の人々の観念形態の変化に照らし合わせながら読み解いていきます。

 

 

 

目次

 

 

 

Web2.0(2005〜2007)

2005年、オライリーメディア社の創業者であるティム・オライリーが「Web2.0」を提唱しました。
「Web2.0」とは、かつての一方向(マスメディア)の時代が終わり、双方向(ブログメディア)の時代が訪れることによって情報の発信者が増え、蓄積された膨大なデータが新たな価値としてユーザーに還元されるという、ネットワークの根本的構造のパラダイムシフトのことを指します。
しかしあまりに概念的なこの言葉は正しく認知されず、「Webが次の段階に移行した」といった程度の漠然とした理解のまま、バズワードとして濫用されてしまいました。

 

 

 

 

このWeb2.0への誤解、曲解は当時のWebデザインにも強く影響を与えました。
ビビッドな配色や鏡面反射するボタン、Flashによる動的表現など、未来的なロマンチシズムを感じさせるのが大きな特徴です。
これは当時職業として確立され始めていたWebデザイナーが、「テクノロジー」を全面に押し出すことによって紙媒体(グラフィックデザイン)に対する優位性や差異を強調する狙いがあったと思われます。

 

 

 

 

「Web2.0」という新時代の到来、そして通信速度や解像度の向上といった技術革新に後押しされる形で巻き起こった未来志向の空虚なスペクタクルは、1960〜70年代に流行したスペースエイジとも重なる部分があります。

 

 

 

スキューモーフィズム(2007〜2010)

 

 

スキューモーフィズム(skeuomorphism)とは、他の実在する物質に似せるために行うデザインや装飾のことを指します。見た目から直観的に機能をイメージしやすいというメリットがあり、特にiPhoneなどのタッチデバイスの普及に多大な貢献をもたらしました。
現実世界の静的な物体をデジタル世界に再現することは本末転倒であるとの批判もありましたが、デジタルメディアを探求する動きが加速する中で、ユーザーにインターフェースへの理解を促進することは急務でした。
後にフラットデザインが比較的抵抗なく受け入れられたのはスキューモーフィズムの成果であると言えます。

 

他の物質に似せるという試みはWeb2.0の頃から実践されてきましたが、当時は不自然に鏡面反射するボタン(通称アクアボタン)など、実在しない「何か」がモチーフとなっていたのに対し、スキューモーフィズムは実在する「何か」を再現しようとしているのが大きな特徴です。

 

 

 

 

またこの頃のWebデザインは、Web2.0時代に一度否定した紙媒体に再び回帰しています。それは本来の目的を見失った虚飾としてのスキューモーフィズムであり、紙のテクスチャやスラブ系書体、糸を縫ったステッチ風デザインなど懐古主義とも言える表現が積極的に用いられました。
Web2.0時代の過剰な未来志向への反動であることは明らかです。

 

 

 

過渡期(2010〜2013)

 

2010年10月、MicrosoftがWindows Phone 7をリリースしました。モンドリアンを彷彿とさせるグリッドのような形態を持ち、シンプルなサンセリフ体とフラットなアイコンを基調としたUIは「Metro UI」と呼ばれ、賛否を巻き起こしました。
そして2012年、ついにMetro UIを採用したWindows8がリリースされます(後に「Modern UI」に改称)。
ユーザビリティの専門家であるヤコブ・ニールセン氏は「立体的な表現を廃したフラットなUIでは、どこを押すことができるのか、あるいはどこに文字を入力できるのかわからない」と指摘していますが、その意に反して多くのWebデザイナーはMetro UIの合理性に深く共感し、スキューモーフィズムに懐疑心を抱き始めました。

 

 

 

 

Metro UIが多くのWebデザイナーの心を惹きつけた理由の一つに、その「機能美」が挙げられます。
バウハウスやスイススタイルといった正統なデザイン様式への参照が多く見られるMetro UIには、これまでのような余計な装飾を排した、機能そのものの自然な美しさがあります。
Metro UIの登場を契機に、グラフィックデザインへの関心が「質感」から「機能」へ移行したのです。

 

また、レスポンシブレイアウトやWebフォント、jQueryといった新しい技術が普及し、今までWebデザインが慢性的に抱えていた諸問題が一様に解決したのもこの時期です。

 

Webデザイナーはこれまでの混迷の時代を振り返りながら、秩序を重んじる真のデザインを希求し始めます。

 

 

 

フラットデザイン(2013〜)

 

2013年、以前から噂のあったとおり、新規iOS7でフラットデザインベースのUIが採用されました。
主にコントラストの高いカラーパネルや文字要素のみで平面的に構成されており、今まで用いられていた立体表現が排除されているのが特徴です。
この時期、スキューモーフィズムを完全に捨て去り、フラットデザインに移行したWebサイトが急増しました。

 

フラットデザインが台頭した理由の一つに、デバイスの多様化によってレスポンシブレイアウトの重要性が増したことが挙げられます。
これまでの装飾的なコンテナは可変させることが容易ではありませんでした。フラットであることは保守性の高さにも繋がるのです。

 

この事実に鑑みると、フラットデザインは単なる視覚的なトレンドの一つではなく、開発サイドにおける合理性の追求、つまりWebデザインの規格化・標準化という意味合いを持っていることが分かります。
それは建築やプロダクトと同様、Webデザインの世界にもモダニズムの波が訪れ(たった30年にも満たない歴史の中で)、現代の大量生産により相応しい形に合理化されたことを表しています。

 

 

 

 

2014年、Googleがマテリアルデザインを提唱しました。
スキューモーフィズムへの反動で一度捨て去った物質的メタファーを再び取り入れ、フラットデザインのユーザビリティ上の問題を解消しています。

 

 

 

最後に

こうしてWebデザインの歴史を俯瞰すると、技術の進歩が人々の観念形態に影響を及ぼし、Webデザインのトレンドを決定していることが見て取れます。
そして、大きく年の離れた兄弟とも言えるグラフィックデザインに対するコンプレックスが、尊敬の念へと移り変わっていくのも非常に興味深いところ。

 

フラットデザインがWebデザインの世界におけるモダニズムであると仮定するなら、当面はこの様式が主流になると予想されます。しかしフラットデザインの合理主義かつ禁欲的なスタイルに異を唱える、過剰性・奇異性が強調されたWebサイトも数多く出現しています。

 

 

 

 

それらはWebデザインにおけるポストモダンと呼べるほどの大きな潮流には発展しないかもしれません。
しかし現行の主流に対して問いを投げかけるその態度は、表現者としての全てのWebデザイナーが持つべき姿勢ではないでしょうか。

Service

サービス紹介

Works

制作実績
Contact us

まずはお気軽にご相談ください